暴力などのハラスメントで介護職を辞めたい、と考えている方も多いと思います。
ここでは、介護職における暴力の現状とその対処法について考察していきます!
はじめに
今後、日本社会の高齢化にともない介護現場における労働環境では、介護職員が安心して働くことができる職場・労働環境を整える事は必要不可欠です。
しかし、近年、介護現場では利用者(高齢者)様によるハラスメント(身体的・精神的暴力・セクシャルハラスメント)などが発生している事が明らかになってきています。
ハラスメントはいかなる場合においても認められるものではありません。ハラスメントの中には、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強制わいせつ罪などの犯罪になりうる行為もあります。
介護現場でハラスメントを受けた職員がケガをしたり、精神的な病気になってしまったり、
仕事を辞めたいと思われた方々は少なくありません。
現在では、事業主が職員(労働者)に対する安全配慮義務等を行い、その責務として対応している事業所も増えてきている現状が見られています。
認知症による暴言・暴力とは
まず、知っておきたい事は、認知症等の病気、障害の症状として現れた言動はハラスメントとしてではなく、医療的なケアとしてのアプローチが必要であるということです。
認知症だからといってすべての人が暴言や暴力を起こすのではなく、その背景には様々な要因があり、複数の要因が重なってしまい暴言や暴力に至ってしまうというケースが多く見られています。
認知症がある場合、認知症の診断は受けていないが認知機能が低下してきている場合など、BPSD(行動心理症状)を前提としたケアが必要になってきます。
身体的・精神的暴力・セクシャルハラスメントについて
身体的暴力とは、身体的な力を使って危害を及ぼす行為を言います。
例えば、叩く、蹴る、ひっかく、つねる、等があります。
また、精神的暴力には、個人の尊厳や人格を傷つけたりする行為を言います。
例えば、怒鳴る、大きな声を出す、威圧的な態度で文句を言う、理不尽なサービスを要求する等があります。
そして、セクシャルハラスメントでは、意に添わない性的な発言や好意的な態度の要求、いやがらせなどを言います。
例えば、必要以上に手や腕を触る、抱きしめる、入浴介助中に性的な発言をあからさまに言う、卑猥な言動を繰り返すなどがあります。
これらの行為には、高齢者自身の不安や緊張、恐怖感、強いストレスなどから周囲に対する警戒心が強まり、興奮したり、怒りっぽくなったり、暴れたりする行動へと引き起こされます。
さまざまな要因について
人が怒ったり興奮したり、怒鳴ったりする行為は異常な行動ではありません。
認知症の人に限らず、健常な人も相手と喧嘩したり、自分の思い通りにならなかったり、
自分を攻撃する人がいれば威嚇したりする行動は誰にでもあり得る行為です。
しかし、ここで大切なのは認知機能の低下による理解力、判断力の低下から引き起こされるものであるという事です。
そしてその様々なリスクの要因として大きく分けるのならば、「環境面でのリスク要因」「利用者に関するリスク要因」「サービス事業所のリスク要因」などが考えられます。ハラスメントを対策するためには、事案発生時の背景を分析し、発生した状況やその時の対応方法などできるだけ、正確に把握する事が大切です。
環境面でのリスク要因
職員と利用者様のケアを行う場所の構造や提供するときの体制などが要因となる事があります。具体的には、「座席から出口が遠い」「近くに職員がいない」「声が届きにくい」「カギが掛かっている」または、誰もいないところでの1対1の体制や逆に1対大勢の体制で、配慮が行き届かないなどの要因もあります。また、身近にある物として攻撃的な時や興奮状態の時に思いもよらぬ使われ方をするときもリスクの要因として考えられます。
利用者様に関するリスク要因
例えば、生活歴に違法行為や暴力行為があったり、普段から攻撃的な性格であったり、家族関係、友人関係などの人間関係にトラブルを抱えていたりすることもリスクの要因に当たります。
サービス事業所のリスク要因
説明不足による、施設やサービス事業所のルール、サービス範囲の理解を得ておらず、
提供するサービスに対して、誤った期待を生じさせてしまうこともあります。
また、職員に対する教育で規則やマナーが実施できていない事やコミュニケ―ション不足からご利用者様のニーズや気持ちをうまくくみ取れていないなど、ご利用者様に対する対応がきちんと実施できていない状況も考えられます。
ハラスメントは初期対応が重要
暴言や暴力を受けた職員に対しては、まず一人で抱え込まずに上司や施設・事業所内で適切に情報共有する事が大切です。そのうえで、組織的に対応をすることが重要となります。
ハラスメントであるか否かは客観的な判断が求められます。
一般的には介護職員の感じ方を基準にその有無を判断しますが、当然、暴言や暴力を受けた職員の感じ方にも配慮する必要があります。
そういった意味での初期対応で不適切な対応を行った結果、関係性が悪化したり、さらなるハラスメントを誘発してしまう可能性もある事を認識しておく必要があります。
ハラスメントが起こった時の要因を分析する事が大切
その時の状況やできるだけ正確な事実確認を行う事が大切です。
興奮や暴力などがどうして起こってしまったのか、その理由や原因を知ることで、その原因を取り除きながら落ち着いたり、安心したり、環境を整えてあげることが重要です。
逆に行動を抑制したり、気持ちを無視したり、その場限りの対応というのは良くありません。
本人(高齢者)様の気持ちを理解し、理由に応じた対応ができれば自然と興奮は収まり、暴言、暴力も減少します。まずは、本人(高齢者)様の気持ちを理解することが大切です。
ハラスメントにおける対処法
これまでお話した内容に関して、様々な状況に応じた対処法を理解しておくだけで、介護職員も気持ちが少し楽になるかと思われます。
まず、共通できる対処法としては、話せる環境(場所)を用意することです。
認知症の人は外部から入ってくる情報に対して非常に敏感です。できるだけ静かにお話ができる環境を整えることが重要です。
そして、本人(高齢者)様にとって居心地の良い場所を検討し、専用の席や場所を作ってあげる事で比較的に落ち着きやすくなります。
また席の位置を調整することも大切です。周囲の状況が把握できずに、緊張感や焦燥感、不安な気持ちなどが増幅し「暴言、暴力」に繋がってしまうことがあります。実際に視線の中に入っているだけでも、興奮したり、イライラされたりする人もいます。
そのため、席の配置の工夫はどの介護現場においても苦労される1つだと思います。
その他に、なじみの物を近くに置いておくなどの工夫も良いかと思われます。
そして、時には屋外に出て外の空気を吸ったり、日光に当たったり、気分転換をする事もとても有効かと思われます。
まとめ
これまでのハラスメント(身体的・精神的・セクシャルハラスメント) をお話してきましたが、
あくまでも認知症だからしょうがないとか、私が我慢をすればいいだけの話などと思われずにまずは何でも相談してみる事です。それが暴言、暴力に当たるのか否かに関してよりも、介護職員として、身体的にも精神的にもダメージを負ってしまえば、介護職を辞めたくもなります。
しかし、高齢者のハラスメントは認知症やBPSD(行動心理症状)によるものだと理解できれば改善の余地があり、対応1つで状況が変わることだってあります。
それは、介護職を行うに当たって必ず目の当たりにする壁であり、乗り越えなければならないものであると思います。
高齢者様が興奮したり、暴言、暴力を振るう背景には、必ず何らかの原因があり、引き金となる出来事や事象が隠されています。人は何の理由もなく怒ったり、暴力を振るったりすることはありません。それは認知症の人も同じです。
1つ1つ原因や理由を探り、見つけ、不安やストレス、焦燥感など緩和できるきっかけを見つけてあげる事も介護職の仕事の1つだと思います。
そのためにも、職員側である私たちがもっと専門的な知識を身に着け、経験し適切な対応を心掛ける必要があると思います。また、暴言、暴力を回避するための方法や個人ではなく、組織(チーム)で解決するという事を忘れずに、高齢者の方々が、そして認知症の方々が安心して暮らせる社会を築いていくことができるのは、介護職としての使命だと感じています。